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科学の力ってすげー?

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【本】一万年の進化爆発


本書の面白さは、
綿密なデータの分析を遺伝学および人類学の立場に加え
歴史の視点も持つことで、
きわめて説得力あるひとつの仮説を提示して
読み手を納得させていくところにある。

その仮説とは、人類はこの数千年の間にも
選択の結果によって、遺伝子と表現形質のレベルで
進化を続けている、というところにある。

乳糖耐性、抗マラリア、アルコール分解能力、アシュケナージ系ユダヤ人のIQなど
実例を科学的に検証しており、
読んでみると納得なのだが、
逆になぜ、こんな当たり前のことが他の科学者や
論壇から出てこないのかなと思った。


ひとつには、人種差別の問題と大きく絡んでいると思う。
肌の色をはじめ、人種差別によって、人類は歴史にかなり汚点を
残しており(あるいはいまでも続いている)、
その撤廃が今日なお重要課題である。
が、それを大義に掲げるときに、人種や集団によって明らかに遺伝子にも
形質にも差異が生じている、という本書のような説は「不都合な真実」に
なってしまう恐れがあって、
ほかの人類学者たちは、出アフリカ以降の人類は違いはありません、という
政治的な立場をとらざるをえない空気が、とりわけアメリカなどでは
強いのかな、と思った。

かつて宗教的創造説が、地動説にはじまりダーウィニズムに至る
科学革命の中で否定され続ける中で、
信教していた科学者たちが直面した苦悩にも似ているかもしれない。

あとは逆に、実際に人種を超えての婚姻や子供の誕生が当たり前になってきて
一般の人々の意識のなかでも、人種の違いを意識することが減ってきた、という
政治・社会的には望ましい状況が、むしろ遺伝的差異の表現形質への違いを
意識させることを減らすようになってきたこともあるかなと思う。

要するに、ナチス時代のアーリア純血思想、優生学的なものが主流な環境だったら
きっと本書の説は諸手で歓迎されたのだろう(苦笑)。

ナチスの人種主義とそれに基づく政策は、世界を恐怖に陥れ、いまだに負の記憶と
なっているわけだが、
優生学そのものは「間違っていた」が、純粋に科学的に見ると、
今日の自然科学、人類学の先端的知見に通じるところもあった、という
なんともいえない状況に思われる。

私自身は、本書を読んで、かなり納得した。
序盤で、ネアンデルタールと現生人類の祖先との混血があったという説を
著者らは主張する。
私は、これまでその説を2〜3回きいたことがあったが、若干トンデモ寄りに思っていた。
しかし、著者らの言う方が説得力があると考え直した。

理由としては、生物種が違っても混血は可能であるという真実がひとつ。
動物の「あいの子」のように、数百万年前にたもとをわけた種でも繁殖は可能である。
ヒトの祖先とネアンデルタールの分岐の年数にもよるが、物理的に混血は可能だろう。

もうひとつは、ある遺伝子が優位であるなら、運にもよるが、それが数世代で
集団にあまねく広まることは遺伝学的に考えると普通にありえるという計算が成り立つこと。
残念ながらまだネアンデルタールの遺伝子が流入した決定的証拠はないわけだけれど、
数万年前のヒトの劇的な創造性をはじめとする能力獲得に彼らの因子が寄与したと
考えることは、けっして不合理ではない。

また、本書が説得力あるのは、上述したが、
現実の歴史的事実をベースに、ある政策なり、圧政なり、侵攻なりが行われて
集団の空間的移動であるとか、数の増減に決定的影響がもたらされた結果を
遺伝学の立場から証明できているところにある。

その結果、紀元後の2000年程度だけを仮に見ても、そうした歴史事実によって
相当の遺伝子の残る残らないが左右され、ある集団を特徴づけていたりする。
ヒトも、リアルタイムで変化している「遺伝子を持つ」生物なんだなと改めて認識した。
私が本書を読んでふと思ったのは、
日本人ってどういうふうな遺伝的特徴があって、およびそれが行動や思考に
どう影響しているのかなということ。
もちろん、日本人にも弥生系と縄文系のルーツがあり、その混合があり、
さらには歴史の中で海を越えてわたってきた人々の遺伝子も入っているだろうから、
単純に定義できないのはわかったうえで言っている。
それを踏まえてもなお、日本人の気質とはなにかと考えたときに、
数千年以上にわたり、この島国のなかの暮らしに適応的な遺伝子がのこって、
それがいまなお影響している部分は少なからずあるのではと思う。

それが何かを考えてみたい。



一万年の進化爆発 [単行本]
グレゴリー・コクラン (著), ヘンリー・ハーペンディング (著), 古川奈々子 (翻訳)
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